消えたふたりの謎 何の変哲もない、いつも通りの朝のハズだった。 双海亜美が目を覚ますと、不思議な違和感を感じた。 何やら周りの景色がとても大きい。 自分がまだ幼いとは言え、これはおかしいと思っていた。 手を見る。 なんだか「ゆーしテッセン」みたいな形だ。 足も見る。 これも「ゆーしテッセン」みたいな形だ。 足を見る。 ……どうやらひとつめの違和感はこれだった。 足の数が2本多いのである。 次に自分の身体を見る。 もの凄く茶色い色をしている。 背中を触ってみる。 固い感触と、薄い何かがあることが判る。 ここまで来ると、自分の身に不可思議な現象が起こったということは重々承知できる。 自分が人間以外の何かに変身したということ。 そして、自分が明らかに小さくなっていること。 その何らかに変身したこと自体に、亜美は驚きはしなかった。 それこそ、小学生のフリーダムな心境と言うのだろう。 ここで、ふと亜美は気付いた。 「あっ、鏡を見ればいいんだ!」 なんとも単純明快。 ベッドから抜け出し、鏡台の前へ急ぐ。 「……うわー、すごい」 朝起きたら虫になっていた。 このような名の作品があるが、まさにその状態だった。 その亜美の姿は紛れもなく「カブトムシ」だったのである。 まさか人間がカブトムシになるだなんて「チョウリキショウライ」もビックリである。 そこで亜美は、ふと思い、真美の元へ行った。 ……思った通り、真美もカブトムシになっていた。 以心伝心、そこはさすがに双子らしい。 真美を取りあえず叩き起こし、これからどうするかを話す。 「で、これからどうする? 亜美たちの声、絶対普通の人に聞こえないよね?」 「取りあえず、今日はレッスンと仕事あるし。事務所行こうよ」 仕方ないのでそのままの状態で出勤することになった。 ふたりは全裸であることにかなり抵抗があったようだが致し方ない。 なぜなら、カブトムシの姿では装備などとても不可能であるからだ。 幸いにもこの日は窓を開けて寝ていたので、窓から飛びだした。 羽根を一生懸命バタつかせ、空を飛ぶ。 そこからは、自分たちの住んでいる街が一望出来た。 「……この街って高いトコから見ると綺麗だね」 「うん、忙しくって全然気にしてなかった」 雑談を交えながら、事務所にはたどり着くことが出来た。 途中、飛ぶのに疲れたので環状線に乗って行った。 普段は定期券を使っているが、今の場合は仕方ない。 人生初のただ乗りだった。 そんなこんなで765プロに着くことは出来た。 が、ここで予想はしていたがひとつの障害にぶつかった。 「ねえ、誰も亜美たちのことに気付いてないよね?」 「うん。このままじゃ真美も亜美も、ミキミキとかに捕まえられちゃうよ」 「うーん……どうにかしないとなぁ」 ♪     ♪     ♪ 「……ということは、この2匹のカブトムシが消えてた亜美と真美ということですか?」 「はい。そういうことらしいんですよ」 765プロでは、亜美と真美がいなくなったことでちょっとした騒ぎになっていた。 家にも事務所にもおらず、本人たちにも連絡がつかなかったのである。 プロデューサーが、ふたりの両親か学校に連絡しようとしたところで、音無小鳥が説明に入ったのである。 小鳥は驚愕の表情を浮かべているのに対し、プロデューサーはあっけにとられた顔をしていた。 「あの小鳥さん、その情報はどこから入ったんですか?」 「ええ。今、事務所にそういう電話がかかってきてて……」 「……その電話の相手って誰ですか?」 「さ、さぁ……?」 プロデューサーは何か勘づいたらしく、小鳥から電話を受け取る。 その表情はまさに「怒りながら笑っている」と形容出来た。 「そんなに仕事サボりたいか、亜美・真美……!」 「「あ、バレちゃった?w  つ、つい休みたい欲が出ちゃって……w」 「取りあえず出勤してこい」 「「はーい♪」」 (終)