『Sea of tears,Tears of sea』  私は、14歳の夏の全ての出来事と、その思い出をささげる。  大切な友達、そして今も私の近くにいる彼女へ。                            2020年11月3日 森里 楓  プロローグ.    夏が終わろうとしていた。  別に悲しいという訳じゃない。宿題はみんなで協力するし、楽しい思い出にも事欠かない。でも、私の心ははどこか物足りなさを感じていた。  カーテンの外から雀のさえずりが聞こえる。  ふと、机わきのカレンダーの写真が目に入った。  私はベッドに寝転がり、暗い天井を見つめながら、小さくつぶやく。  「海」  海で泳ぎたい。  そういえば、夏休みの初めに行ったっきりだった。あの時はまだ(泳ぐには)寒くて、海水浴と呼べるものは出来ていない。  私の家は海の近くで、通学の度に海を見る。よく、海の近くにすんでる人は海水浴はしないなんていうが、私はそうでもないと思う。たまには泳ぎたくなるもんだ。  私はぐしゃぐしゃのベッドから飛び起き、窓のカーテンをわざと音が立つようにあけた。 外は薄暗くて、少し曇っている。暗いのは当然だろう。枕もとの時計の針は、まだ4時半を示していた。 「はぁ、・・・することないなぁ」  普段の私ならこんな時間に起きてはないだろう。人にあげてもお釣りがくる位の低血圧な私なのだ(低血圧を他人にあげるって、言葉的におかしい?)。しかし、今朝は事情が違った。   悪い夢でも見たのか、早々に目が覚めてしまった。べとべとした汗を体中に掻いて、飛び起きたのだ。手は、聞きたくない事があったのか、耳に(それもめいっぱい)当てられていた。お陰で腕も耳も変になりそうだ。  私はベッドの上で半回転し、枕もとのケータイを手繰り寄せる。  何とステレオタイプな目覚め方をしてしまったのだろう。それも悪夢を見た時の。でも、1つ違うところがある。肝心の夢の中身を一切憶えていないのだ。これでは本当に悪夢を見たのかすら分からない。しかし、早く目が覚めたのは曲げようのない事実だ。それに値する何かがあったことも。  私はケータイを開くと手馴れた操作でEメール画面を起動していた。複数のアドレスへ一括送信。タイトルは無し。本文の所に゛海いく?"とだけ入れ、その流れで送信ボタンを押す。しかし、新聞配達のバイクの微かな騒音が私を現実に引き戻した。私は慌てて中止ボタンを押す。そう、今はまだ早朝なのだ。真っ当な女子中学生が起きているはずがない。大切なメールなのだから、適切な時間に、確実に送信しなければいけない。遊ぶならたくさんのほうがいい。それに、無理やり起こして機嫌を悪くされたらたまらない。気分屋な友達が多いもんだから。  少し時間を潰さなくては。  その後私は、部屋にある漫画雑誌を読んだり、小雨が降る空の雲の数を数えて過ごした(雲は一つだった)。暇で苦しむかとも思ったが、狭い部屋の中をゴロゴロしてるうちに緊張の糸がが解れ、うつら、うつらと眠気がやってきた。それ以降は憶えていない。ただ、漠然と海のことを考えていたような気はする。