ナレーターB : みなさんこんばんは ナレーターB : 本日は第14回 ナレーターB : 劇団Sunnyspot公演 ナレーターA : 「魔王物語-後編- かたき誓い」 ナレーターA : にお越しいただきありがとうございます ナレーターA : 演劇を始める前に注意事項があります ナレーターA : 劇中はオープンチャット禁止となっています ナレーターA : チャットルームは禁止ではありません ナレーターA : 鷹、ペコに関しては解除していただくか、 ナレーターA : 邪魔にならないところまでお下がりください ナレーターA : 先日新たに実装した ナレーターA : 騎乗生物も同様にお願い致します ナレーターA : ペットに関しては意思なくしゃべることがありますのでご遠慮下さい ナレーターA : また鯖缶などのトラブルにより劇が一時的に中断する場合もあります ナレーターA : 当劇団は前と後ろの二つの舞台を使用します ナレーターA : 公演時間は2時間を予定しています ナレーターA : と言いたかったのですが ナレーターA : 2時間半を超える見込みでございます ナレーターA : 長い劇ですので ナレーターA : トイレや飲み物を摂る方は ナレーターA : 今のうちに! ナレーターA : えー、それでは ナレーターA : 「魔王物語-後編- かたき誓い」の公演を開始致します インキュバス : ご機嫌だね さきゅたん 魔王 : ふむ・・・ サキュバス : 元気ルンルン 魔王 : これでよし インキュバス : ・・・・・ インキュバス : いやいやいやいや!! サキュバス : 何が「よし」なのかまったくもって理解出来ませんわ! 魔王 : すまん、ぼーっとしていた 魔王 : お前達・・・居たのだな インキュバス : えぇえぇ居りましたとも! インキュバス : 魔王様がその娘を運んでくる前からずっと! サキュバス : それで魔王様・・・ サキュバス : その人間の子供はいったい・・? 魔王 : ああ、それなのだが 魔王 : 実は先程 魔王 : 森に人が踏み入った気配を感じて見に行ったのだ 魔王 : すると 魔王 : この娘が捨てられていた 魔王 : 放っていては他の魔物に食われてしまうかもしれん 魔王 : とりあえず保護したという訳だ サキュバス : は、はぁ・・・ 魔王 : ん 魔王 : 目が覚めたようだな サーニャ. : だれ・・・・? 魔王 : 我のことか? 魔王 : さて、どう名乗ったものか サキュバス : この御方は、恐れ多くもこの地を治める魔王様ですわ! 魔王 : まぁ、そういう者だ サーニャ. : まおうさま? サーニャ. : あ! サーニャ. : もしかして、パパ!? サーニャ. : パパなんでしょ? インキュバス : ・・・・・・・・・魔王様 インキュバス : まさか人間との間に子供を作っていたのですか!? 魔王 : 馬鹿を申すな! 魔王 : いくら我とてそれは無いぞ サキュバス : 幾年か前までは人間として暮らしていたとお聞きしております サキュバス : もしや、その時代にお作りになられた子では・・・ 魔王 : "奴"にそれほどの気概があれば 魔王 : 我も苦労はせんかったわ・・・! 魔王 : それにしてもお前達 魔王 : 主を疑うとはいい度胸ではないか・・・ インキュバス : めめめ滅相もない! インキュバス : さて、お嬢ちゃん。どうして父親だと思ったんだい? サーニャ. : 「パパにあわせてあげる」って、ママがいってて・・・ サーニャ. : おきたらね、このひとがいてね インキュバス : あーらら・・・全く惨いことするなぁ。 魔王 : (人・・・) サキュバス : なるほど、死んだ父親の下へ送ってやると言われて、 サキュバス : この森へ捨てられたという訳ですわね 魔王 : さて、早速だが人の子よ 魔王 : お前には3つの選択肢がある サーニャ. : せんたくし? 魔王 : そう、選択肢だ 魔王 : ここで死ぬか 魔王 : 人間の街へ帰るか 魔王 : あるいは・・・ 魔王 : この森で生きるか・・・ 魔王 : どれかを選ばせてやろう インキュバス : あの、魔王様? 最後の選択肢ってつまり・・・ 魔王 : お前は黙っていろ サーニャ. : しぬのは、いや サーニャ. : かえれなくても、パパにあいたい・・・パパが、ほしい 魔王 : ・・・よかろう 魔王 : ならば 魔王 : 我が娘として 魔王 : 森で生きるがいい サーニャ. : むすめ? インキュバス : あー、やっぱり・・・ インキュバス : 魔王様、流石にそれは同胞の反感を招きかねませんよ? サキュバス : 私も反対ですわ、人間をこの森に住まわせるなど・・・ 魔王 : ちなみに、だが 魔王 : この娘は成長すると美しい少女になると思うのだが インキュバス : はっ!! インキュバス : 養育係はお任せ下さい サキュバス : 折れた・・・ 魔王 : あるいは 魔王 : 男装も似合うかもしれんぞ サキュバス : い、インキュバスと一緒にしないでくださいません? サキュバス : あのような変態色情魔とは断じて違いますので! 魔王 : 「お姉様」と慕ってくれるかもしれん 魔王 : どうだ? サキュバス : ま、まぁ人間一人住まわせた所で問題という問題はありませんわね 魔王 : ・・・という訳だ 魔王 : 今現在を以て 魔王 : 我がお前の父 魔王 : パパだ サーニャ. : パパに、なってくれるの? 魔王 : うむ 魔王 : そう言った サーニャ. : ふぇ・・・ふぇえ・・・ 魔王 : な・・・ 魔王 : 何故泣くのだ!? インキュバス : 感極まっちゃったんですよ、魔王様 サキュバス : 魔王様。その子を娘とするなら、同胞に紹介しておいた方が宜しいのでは? 魔王 : う、うむ・・・ サキュバス : 同胞に襲われて食べられてしまっては問題ですから 魔王 : それはそうだが・・・ 魔王 : その前に、だ 魔王 : 娘よ 魔王 : お前の名前は何と言うのだ? サーニャ. : ふぇえ・・・ひっく・・・サーニャ・・・ 魔王 : よし 魔王 : サーニャか 魔王 : 良き名だな 魔王 : それでは付いて来るがいい 魔王 : 同胞への紹介がてら、 魔王 : この森を案内してやろう クリス : ただいま戻りました 国王 : うむ。報告を聞こう クリス : 国の西、山間部にて魔物の拠点を確認 クリス : 率いた小隊にて、直ちに拠点内を殲滅しました クリス : 昨今、多くの魔物が北の森へ集まっているようですが、 クリス : その他は群れを成し、商人達を襲う脅威となっている模様です 国王 : ・・・うむ、ご苦労だった 国王 : 下がってよいぞ クリス : はっ・・・ 大臣 : さて 大臣 : 王よ 大臣 : いかがなさいますか? 大臣 : 任務であれば情けを掛けず 大臣 : 冷酷に剣を振るう「冷将」でありながら 大臣 : 平時では孤児院を支援するなど 大臣 : 弱者に手を差し伸べる騎士の鏡 大臣 : 民の間では 大臣 : クリスを英雄視する者も多くおります 大臣 : ただでさえ 大臣 : かの家は先の戦争で一番の戦功を上げた貴族でもあります 大臣 : 放置していれば、 大臣 : いずれ王の座を脅かす支持を得ますぞ 国王 : うむ・・・下々に限らず、貴族の中でも奴を支持する者は多い 国王 : しかし、不当に扱おうものならワシへの批判も溢れかえるだろう 国王 : 何か、良い策はあるか? 大臣 : はい 大臣 : 「英雄」の最期には 大臣 : 「名誉ある死」 大臣 : が、一番ですな 国王 : 名誉ある死だと? 大臣 : はい 大臣 : 我が国には先の戦争以降 大臣 : 職を失った傭兵崩れが多くおります 大臣 : その多くは賊に変わり、 大臣 : 我が国に不利益をもたらしている現状です 大臣 : そこで 大臣 : 彼らを傭兵として雇い入れ 大臣 : クリスには彼らを指揮させるのです 大臣 : そして 大臣 : 「魔王」を討伐して頂きましょう 国王 : ・・・・・・・・・・・魔王? 国王 : 北の「魔の森」に居るとされる魔王のことか? 国王 : 眉唾なものだが・・・ 大臣 : 確かに眉唾ですが 大臣 : 民の間では実しやかに囁かれている噂です 大臣 : 国に溢れている傭兵崩れの総数は千弱 大臣 : これを率いさせ、連隊規模で魔の森を攻めさせましょう 国王 : 魔物殲滅の大義の下、国の癌を取り除けると言う訳か 国王 : クリスにも、そこで「戦死」して貰おう、と? 大臣 : ええ 大臣 : 魔物と戦い 大臣 : 「英雄」として! 大臣 : ・・・死んで頂きましょう 大臣 : 民から惜しまれつつ 大臣 : 将軍は短い人生の幕を閉じるのです 大臣 : 私の見立てでは、魔の森の魔物の数も千前後 大臣 : 相討ちが理想ですが、兵の大半が死するのは必定 大臣 : 討伐が成功しなかったとしても 大臣 : 魔物へのダメージも甚大 大臣 : 我が国を攻め返すほどの力は残らないでしょうな 大臣 : もっとも・・・ 大臣 : 噂にある・・・ 大臣 : 「魔王」 大臣 : それが実在していたならば話は別ですがね 国王 : 魔王など存在していたならば、こんな話など出来ておらん 国王 : とうにこの国は滅ぼされているであろうよ 大臣 : とはいえ 大臣 : ここ十年の間に北の森へ魔物が集まっているのは 大臣 : 何かの前触れであるような気はしないではありませんな 国王 : ふん、まずは国内の癌を取り除いた後で調査をすれば良い 大臣 : ふふ・・・ 国王 : 傭兵崩れ共とは別に、我が国正規の軍を使ってな 大臣 : その通りでございます スバル : ここに居られたのですか、将軍殿 スバル : この街唯一の孤児院・・・ スバル : 将軍殿のご親友が暮らしておられたのも、ここでしたね クリス : 後七日だ スバル : 七日? クリス : 後七日で、十年が経つ・・・ビリーが居なくなってから スバル : ・・・消えた遺体は未だに見つかっていないとか スバル : 墓も作ってはおられないのでしたね クリス : 作ったところで、中に入れるものが無いからな クリス : あの時 クリス : 私はビリーを背負いながら クリス : 徐々に冷たくなる体温を感じていた クリス : 医者に駆け込んだ時にはもう、 クリス : ビリーの身体は冷え切っていて・・・ クリス : それでも、 クリス : 当時の私はまだビリーが死んでいるとは思えなかった クリス : 背から降ろして、 クリス : 見えたビリーの表情が余りにも安らかで・・・な クリス : だからかもしれないな、 クリス : ビリーの遺体が消えたと聞いて、 クリス : やはり死んでなんかいなかった クリス : と、かえって希望を持ったりした スバル : 将軍殿・・・ クリス : しかし、まぁ、当然のことだが音沙汰は無い クリス : なぁ、彼への想いは、一体、何処に向ければいいのだ? クリス : 墓を作ったとて、そこにビリーは居ない クリス : ・・・もう、私の記憶の中にしかいないんだ クリス : だから私は会いに来ている クリス : この場所で・・・思い出の中のビリーに、な クリス : ・・・・・・さて、何か用があったのではないか? スバル : はっ・・・伝達事項が、ございます クリス : 申せ スバル : はっ・・・ スバル : 「これより四日後、クリスは一個連隊を率い、 スバル : 魔の森を襲撃し、魔物を殲滅及び魔王を討伐せよ」 クリス : は・・・はは、ついに来たか! スバル : 将軍殿・・・良いのですか? クリス : 何がだ? スバル : 連れて行く兵は傭兵崩れを千名弱、それと僅かの正規軍のみ スバル : これは貴女の力を恐れた王が スバル : 貴女を公的に始末するための陰謀です! スバル : それも四日後などと・・・あまりに唐突過ぎる! クリス : 分かっているさ クリス : ・・・お前も分かっているだろう? 私の考えは スバル : それでは、やはり・・・ クリス : 言っておくが、死ぬつもりはない クリス : ビリーの十年目の命日には、魔王の首を捧げてやる クリス : 魔物の仲間は必ず、全部、殺してやると決めたのだ スバル : はっ・・・! クリス : 行くぞ、四日以内に兵を使える段階まで調練する クリス : まぁ無理だろうが、やらないよりはマシだ スバル : 仰せのままに クリス : (――君に幸あれ) スバル : ・・・将軍殿? クリス : 何でもない。行くぞ サーニャ : お父様ー! 魔王 : ん 魔王 : ああ 魔王 : サーニャか 魔王 : その服は? サーニャ : お兄様が人間の街で買ってきてくれたの! 魔王 : 奴め・・・ 魔王 : (敵情視察の役割を忘れてはおるまいな・・・) 魔王 : まぁそれはそれとして・・・ 魔王 : よく似合っているではないか サーニャ : えっへへー サーニャ : それだけじゃないんだ、えいっ! 魔王 : おっと・・・ サーニャ : えへ サーニャ : 人間達から身を守れるように、技を教えてくれたの! サーニャ : お兄様って凄く強かったんだね、ボク知らなかった! 魔王 : ・・・そのお兄様というのは 魔王 : インキュバスのことか? サーニャ : うん! サーニャ : お兄様がそう呼べって サーニャ : それで、サキュバスさんはお姉様! サーニャ : だからね、パパのこともー・・・ サーニャ : これからはお父様! どう? 魔王 : ・・・別に 魔王 : 好きに呼べば良い サーニャ : つれないなぁ、今日が何の日か覚えてないの? 魔王 : ふむ・・・ 魔王 : 何かあったか? サーニャ : 大有りだよ! サーニャ : 今日はボクがここに来て五年になる日! 魔王 : む・・・ 魔王 : もうそんなに経つか サーニャ : えへへー・・・それでね! サーニャ : お父様に少しお願いがあるんだ サーニャ : 前のお話の続き、して? 魔王 : 前の話・・・ 魔王 : どれのことだ? サーニャ : ビリーとクリスの話ー 魔王 : ああ 魔王 : その話か 魔王 : 何処まで話したか・・・ 魔王 : 確か 魔王 : ビリーがクリスを庇って倒れた所までだったか サーニャ : そうそう、ビリーは魔王の力を封じられたお父様に芽生えた人格でー、 サーニャ : クリスはビリーの親しい、男らしい女の子だったよね 魔王 : 諸事情から男装していたし、 魔王 : 確かに男らしい性格ではあったが・・・ 魔王 : そう言うと何やら語弊がある気がするぞ サーニャ : 仲良く暮らしてたけど、魔物が街に紛れ込んでて、 サーニャ : クリスを庇ってビリーが死んじゃったっていう話だったよね 魔王 : まぁ、実際には生き続けて 魔王 : 我の中で眠っているだけだがな サーニャ : そうそう! なのに・・・ サーニャ : ねえお父様、どうしてクリスに会ってあげないの? 魔王 : 我がクリスに会ったところで 魔王 : どうしようもない 魔王 : 例えば我が死んだとして 魔王 : サーニャに見知らぬ男が尋ねてきたとする 魔王 : その男が死んだはずの我を名乗ったとして 魔王 : お前は信じられるか? サーニャ : それは・・・絶対信じないと思うけど・・・ 魔王 : そういうことだ 魔王 : 我が会ったところで 魔王 : クリスから見ればそれは 魔王 : 冒涜でしかない 魔王 : 信じてもらえずに追い返されるのがオチだ サーニャ : うー・・・じゃあ、どうしてお父様はこの森で暮らしてるの? サーニャ : クリスの住んでる国ってすぐ近くなんだよね? サーニャ : こんな近くに居るのに会ってあげないなんて意地悪じゃない・・・? 魔王 : ここで我等が暮らす理由は、 魔王 : 人間達との境界を築くためだ サーニャ : 境界・・・国境線? 魔王 : そうだ 魔王 : 我は周辺に生息していた魔物を森へ集め、 魔王 : 秩序を以って治めることにしたのだ 魔王 : かつての王としてな 魔王 : 人間達との関わりを減らし 魔王 : 互いが平和に生きられるために 魔王 : だが 魔王 : いつしか・・・ 魔王 : この森は「魔の森」 魔王 : と呼ばれるようになった 魔王 : 魔物が集まり跋扈する森として 魔王 : 人間達が忌避する場所となった 魔王 : 今 魔王 : 人間達は・・・ 魔王 : この森を攻めようとしているらしい サーニャ : この森を!? お父様、クリスの国と戦争するの? 魔王 : 十中八九 魔王 : そうなるだろう 魔王 : 衝突を避けるために魔物をまとめたのだが、 魔王 : 皮肉にも 魔王 : それが戦の引き金になろうとは・・・ 魔王 : すまんな 魔王 : お前の同族を討つことになる サーニャ : ううん、ボクは大丈夫 サーニャ : 大事なのは、家族の皆だけ サーニャ : お父様と、お兄様と、お姉様・・・それだけ サーニャ : だから皆さえ無事なら、ボクは相手が人間でも戦うよ! 魔王 : ・・・そうか サーニャ : でも・・・・・・お父様、クリスと戦うことになったら・・・ 魔王 : それは・・・ インキュバス : 魔王様! インキュバス : と、サーニャもいたんだね 魔王 : ・・・動きがあったか サキュバス : はい。今日未明 サキュバス : 一個連隊がこの森へ向けて発ったようです 魔王 : 森に入られてはかなわんな 魔王 : 領土を踏み荒らされるのは気分が悪い サキュバス : 恐らく、明日の朝には森へ到達しますわ サキュバス : いかがなされますか・・? 魔王 : 森の前で食い止める 魔王 : 我自ら、な インキュバス : はいはーい。僕達はどうすればいいですかね、魔王様ー? 魔王 : インキュバスとサキュバスはそれぞれ 魔王 : 魔物を率いて待機だ 魔王 : 万が一、 魔王 : 森に敵が侵入した場合は迎え撃て サキュバス : 了解です! サーニャ : ねえねえお父様、ボクは? 魔王 : お前は森の奥で留守番だ サーニャ : ええ、そんなのいやだー! サーニャ : ボクもお父様の役に立つもん! 魔王 : いいから言う事を聞け 魔王 : 人間のお前に何が出来る? サーニャ : 戦えるもん! お兄様に教えてもらったもん! 魔王 : ・・・思い上がるな 魔王 : 何故インキュバスがお前に技を教えたと思っている!? サーニャ : う、うぅ・・・ サーニャ : うわぁぁあぁん!! インキュバス : あーらら・・・・泣かせちゃった・・・・ インキュバス : 魔王様ー、今のはちょっと酷いんじゃないですか? 魔王 : こうでも言わんと分かるまい 魔王 : ・・・報告は以上か? サキュバス : え、ええ・・・ サキュバス : 以上ですわ・・ サキュバス : 魔王様、あの子・・・サーニャをフォローしておいた方が宜しいのでは? 魔王 : 構うな 魔王 : 時として 魔王 : 厳しく当たらねばならんこともある 魔王 : お前達とて 魔王 : サーニャを戦場に出したくはないだろう サキュバス : それはそうですけれど・・・ 魔王 : ・・・・・・敵が陣を張ったら 魔王 : 我自ら出て戦争を終わらせる 魔王 : 万が一、森に侵入する者が現れたら・・・ 魔王 : 容赦なく、殺せ 魔王 : 特に 魔王 : サーニャには決して敵を近付かせるな 魔王 : いいな? インキュバス : ・・・・・・はっ サキュバス : ・・・了解ですわ 伝令 : 副将軍殿! 伝令 : 申し上げます! 副将軍ー : やっと来たか・・・先遣隊はどうなった? 伝令 : ・・・全滅です 伝令 : 森の前まで・・・! 伝令 : 敵影は、全くありませんでした 伝令 : ですが 伝令 : 森に入った先遣隊からの連絡が全て途絶えました 副将軍ー : 森内部で待ち構えている・・・・・・ということか 副将軍ー : 上等だ。引き摺り出してやろう 副将軍ー : 合図が鳴り次第突撃し、一当てした後一斉に反転。敵を釣る 副将軍ー : 陽動作戦だ。敵が釣れたら将軍率いる奇襲隊が敵を殲滅する 伝令 : ・・・了解 伝令 : 全軍へ通達します クリス : もうすぐだ・・・もうすぐ君の仇を討つよ ルキウス : 分かるぜ、将軍の気持ち スバル : 一体どうしたと言うんだ、将軍殿は・・・ スバル : 数日前から人が変わったかのようだ ルキウス : いまの将軍を今動かしてるのは純粋な復讐心! ルキウス : 人間はやっぱりこうでなくっちゃな スバル : 貴様という奴は・・・ スバル : ・・・まぁいい スバル : 将軍殿が望むのなら、私は地の底だろうとついていくまでだ ルキウス : へぇ〜 ルキウス : そいつァ素晴らしい忠誠心だ・・・ ルキウス : 俺には出来ないね〜 ルキウス : 俺は危なくなる前に逃げるぜ・・・ ルキウス : まぁ、将軍の最期は何とか見届けたいトコだがな! スバル : 貴様・・・・・・! ルキウス : 傭兵稼業は引き際が肝心なんでね ルキウス : お家やお国の為に死ぬ貴族連中とはデキが違うんだよぉ〜 ルキウス : テメーは精々足掻いて死ねば良いんじゃねェか? ルキウス : くっくっく・・・ スバル : 軍規さえなければ、今すぐにでも斬り捨てられるものを・・・ ルキウス : お〜、怖い怖い ルキウス : さて・・・ ルキウス : 森の入り口が見えてきたぜ ルキウス : ・・・・・・まだ本隊は交戦してねえようだな ルキウス : どうするよ? ルキウス : 森の中じゃぁ流石に魔物に分があるぜ? クリス : ここで待つ スバル : 交戦をですか? クリス : いや、魔王を ルキウス : ぶはっ! ルキウス : そっちかよ! スバル : 待ってください、魔王が実在するかどうかもまだ分からないのですよ? クリス : 実在するさ クリス : まだ交戦が始まっていない事実 クリス : それは魔物を指揮する者、魔王が存在する証拠 ルキウス : なるほどな〜 ルキウス : まぁ、魔王はともかく親玉が居るのは明らかだァな スバル : では、今しばらく機を見ましょう スバル : おい、何してる? 早く行くぞ ルキウス : あ、あぁ〜 ルキウス : わりぃ ルキウス : ちっと花摘みに行ってくるわ スバル : フン、魔物に見付かるんじゃないぞ スバル : いや・・・ スバル : お前が死ぬ分には何の問題もないか ルキウス : へいへい・・・ ルキウス : ご心配ありがとうさん ルキウス : ちっ・・・ サーニャ : うーん、脇道を通って森を出たのはいいけど・・・ サーニャ : 人間も凄い数・・・ サーニャ : お兄様やお姉様ならともかく、ボクなんかじゃ・・・ サーニャ : ・・・ううん、あきらめない! サーニャ : 一人でも倒して、お父様に認めてもらうんだから! ルキウス : ふぅ・・・ ルキウス : あら? ルキウス : なんでこんなトコにガキが居るんだ・・・? サーニャ : ・・・!? ルキウス : もしかして・・・ ルキウス : テメエが魔王・・・ ルキウス : な訳ねェわな サーニャ : えいっ! ルキウス : おわっ! サーニャ : う、外した・・・! ルキウス : あぶねぇじゃねぇか! ルキウス : オイオイオイ・・・ ルキウス : どういうつもりだ、こら! サーニャ : ボクは魔王の一人娘、サーニャ! サーニャ : お父様の敵はボクの敵! 覚悟しろ人間め! ルキウス : つまり・・・アレか ルキウス : 貴様も魔物ってことか・・・ ルキウス : くっくっく・・・ ルキウス : 憂さ晴らしにちょうどいいぜ サーニャ : あうっ! ルキウス : ・・・ ルキウス : どう見ても人間なんだがな〜 ルキウス : 自称魔物だってンなら仕方ねェよな サーニャ : うぅ・・・ ルキウス : おいおいおい・・・ ルキウス : のびるのははやいぜ・・・って ルキウス : のびちまったよ・・・ ルキウス : 魔王の娘、ねェ・・・? ルキウス : はんっ! ルキウス : てンで大したことねーなァ ルキウス : 楽しみ甲斐のない・・・期待外れだな スバル : おい、何をしている!? やめるんだ! ルキウス : 急に出てくるなよ・・・ ルキウス : ただ、俺はさぁ ルキウス : 怪しい"魔物"がいたので、懲らしめてたトコだ スバル : 魔物・・・って人間、しかも子供じゃないか!? スバル : どうしてこんな所に・・・ ルキウス : それを俺に聞いても知らん・・・ ルキウス : 魔王の一人娘だとか名乗ってたぜ・・・ クリス : 魔王の一人娘、か クリス : 面白い、連れて帰るぞ スバル : 待って下さい! こんな所に少女が一人で居る訳がありません スバル : これは魔物達の罠では・・・・・・ クリス : 罠ならもっと上手くやるだろうさ スバル : それは確かに・・・・・・そうですが インキュバス : サーニャ! インキュバス : ・・・遅かったか スバル : 貴様は・・・!? インキュバス : 君の背負っている娘・・・遅かったかの兄さ インキュバス : 黙って返してくれるなら、見逃してあげるよ インキュバス : どの道、もう君達は撤退するしかないんだから クリス : ・・・どういうことだ? インキュバス : 君達の本陣には、僕達の主が向かったのでね クリス : 魔王か・・・!! インキュバス : はははっ!だいせーかい! クリス : ハ、ハハハッ!! そうか、現れたか、魔王が! クリス : お前達、ここは任せた。私は本陣へ向かう! スバル : はっ! お任せ下さい インキュバス : 逃げる気か? サーニャを置いていけ! クリス : 立場を弁えろよ、魔物風情が クリス : この娘の生殺与奪は私が握っているんだぞ? クリス : 下がれ、この娘の命が惜しくば・・・な インキュバス : 汚い真似を・・・・・・ インキュバス : 騎士の誇りはないのかい? クリス : 誇りなど魔物に食わせてやったよ クリス : とうの昔にな ルキウス : さてと・・・ ルキウス : ・・・じゃ、俺もちょっと行ってくるわ スバル : は? ルキウス : 魔物1体くらいお前だけで十分だろう ルキウス : コイツの相手より、あっちの方が面白そうだ インキュバス : 仲間に見捨てられるとは、君もついてないね スバル : フン、奴など居ない方が戦いやすいというものだ スバル : ・・・・・・ここから先は通さない インキュバス : ちなみに、だけど・・・・・・ インキュバス : 僕を倒すと五百匹くらいの魔物が森から飛び出してくるよ インキュバス : 卑怯なんて言わないよね? スバル : ・・・・・・・・・・・・・・。 副将軍ー : そろそろ頃合か・・・ 魔王 : その合図 魔王 : 待って貰おうか 副将軍ー : 何者だ!? 魔王 : 我は魔王 魔王 : お前達の言う「魔の森」の主だ 副将軍ー : ばっ・・・馬鹿な・・・実在したのか!? 魔王 : 少しばかり 魔王 : 話を聞いては貰えないだろうか 副将軍ー : 話だと? 魔王 : 単刀直入に言おう 魔王 : 兵を翻し撤退してくれはしないか 魔王 : 我等は人間と争うつもりはないのだ 副将軍ー : ・・・・・・ふん。いきなり現れておいて、言うことがそれか 副将軍ー : 拍子抜けだ、魔王! 魔王 : 何? 副将軍ー : 魔王恐るるに足らず! 副将軍ー : おい、誰かいないか!? 魔王 : 早くも交渉決裂か・・・残念だ 魔王 : ――人間を手に掛けねばならないとは 副将軍ー : ・・・? 何をするつもりだ! 魔王 : あの辺りだったな 魔王 : お前達の軍がいるのは 副将軍ー : なっ・・・!? 魔王 : お前のその決断が今、兵の命を奪った 魔王 : そして 魔王 : 次で完全に終わらせよう 副将軍ー : きっ、貴様ァ!! 魔王 : 哀しいものだ・・・ 魔王 : 争う理由は何もないというのに クリス : 今の隕石・・・お前が魔王か? 魔王 : いかにも 魔王 : その通りだが・・・ 魔王 : お前は? クリス : 私は、たった今壊滅した軍を預かっていた将さ クリス : 残った兵はもう、無様に敗走を始めている頃だろう 魔王 : ならば、お前も疾く退け 魔王 : 女が命を粗末にするものではない クリス : そう急くな、まずはこれを見るがいい 魔王 : サーニャ!? クリス : その反応、魔王の娘というのは本当だったようだな・・・嬉しいよ 魔王 : 貴様・・・!! 魔王 : 何をするつもりだ・・・? クリス : そう殺気立つな。手が滑るかもしれないだろう? 魔王 : く・・・ クリス : 私はな。昔、愛する親友を魔物に殺されたんだ クリス : だから魔物に対して復讐するって決めた クリス : 特に クリス : 魔物の頂点たる魔王 クリス : そいつが実在するなら・・・ クリス : 絶対に殺してやるって決めた クリス : それが十年前のことだ 魔王 : 十年前・・・・・・ クリス : 流石に魔王が単独でここまで強いのは予想外だったがな クリス : 認めよう、自惚れていた。私一人でお前を殺すのは無理だ 魔王 : 同胞が 魔王 : お前の親友を殺したことについては謝罪する 魔王 : だが 魔王 : その娘は別だ! 魔王 : 見ての通り、ただの人間なのだ クリス : ああ、確かに人間だ クリス : でも・・・それ以前に"魔王の娘"だ クリス : ・・・・・・一つ、交渉しようじゃないか クリス : この娘を助けたければ、その場で自害しろ 魔王 : 自害・・・ 魔王 : ・・・・・・それで 魔王 : サーニャは助けてくれるのか? クリス : ああ、助けてやるとも 魔王 : ・・・・・・分かった 魔王 : ――ぐぅっ!? 魔王 : これで、 魔王 : 致命傷だ・・・・・ 魔王 : 一刻と経たずに、 魔王 : 我は死するだろう 魔王 : さぁ、サーニャを解放しろ! クリス : ・・・・・・まさか本当にやるとは思わなかった クリス : そこまでこの娘が大事なのか? 魔王 : ああ 魔王 : 掛け替えのない 魔王 : 大切な娘だ クリス : そうか・・・・・・ クリス : 気が変わった。この娘は殺す 魔王 : ・・・・・・なっ!? クリス : 私は、何よりも大事な親友を殺されたんだ 魔王 : 貴様ッ・・・! クリス : それと同じ気持ちを味わいながら死ね、魔王! クリス : それがビリーへの手向けだ!! 魔王 : ビリー、だと・・・・・・? 魔王 : まさか 魔王 : お前 魔王 : いや 魔王 : 君は・・・! クリス : この娘に恨みはないが、悪く思ってくれるなよ クリス : 全ては魔物が悪いんだァァ!! 魔王 : やめろォッ!!! クリス : なっ・・・・・・まだ力が残っていたのか 魔王 : クリ、ス クリス : (・・・・・・何故私の名を知っている?) 魔王 : ――きみに・・・・・・れ クリス : (今、何と言った・・・!?) ルキウス : お〜いたいた〜 クリス : お前か ルキウス : おや、将軍さんよ ルキウス : 顔色が悪いぜ ルキウス : 大丈夫か? クリス : いや、何でもない・・・気のせいだ。撤退するぞ ルキウス : こいつが魔王か? ルキウス : その娘、まだ生きてるが・・・ ルキウス : 殺さないのか? クリス : ふん、殺す意味がなくなっただけだ クリス : 魔王がこのように先に死んでは、な クリス : ・・・消えた? ルキウス : 強い魔物ってのは死体が残らないんだ ルキウス : 何故なら・・・ クリス : いや、御託はいい クリス : 死体が残らない程度どうでもいい・・・それより クリス : なんでもない ルキウス : なんだぁ〜? クリス : 私はこの娘を連れて先に退く、敵の増援が来る前にな ルキウス : いや・・・ ルキウス : ・・・ちっとばかし遅かったようだ サキュバス : よくも魔王様を・・・・・・!! ルキウス : お! ルキウス : いいねぇ〜 ルキウス : その復讐心・・・ ルキウス : 楽しくなってきやがった! ルキウス : なぁ、将軍殿 ルキウス : ここは俺に任せて先に帰ってくれやしねェか? クリス : ・・・・・・勝手にしろ ルキウス : ありがとよ サキュバス : サーニャ・・・ サキュバス : あの子を人質にしたのですわね・・・卑怯な・・・ ルキウス : いやァ、あれは面白かったぜ〜 ルキウス : まさか、あの魔王を自害させたうえに ルキウス : 娘まで手に掛けようとするとはさぁ〜 ルキウス : 将軍殿こそ、"人間"の鑑だ・・・そうは思わないか? ルキウス : 魔物よ・・・ サキュバス : ええ、あれこそ人間。魔王様とサーニャには悪いですけれど・・・ サキュバス : ・・・・・・本当に、唾棄すべき存在ですわね ルキウス : 俺にとっちゃ愛すべき存在だがな ルキウス : んじゃ・・・ ルキウス : ぼちぼちやろうか・・・ ルキウス : 魔物狩りをなァ! サキュバス : ただでは殺しませんわよ・・・ サキュバス : 魔王様を手に掛けた罪、身を以て償え! サキュバス : 集え同胞達! サキュバス : 人間達を生かして帰すな!! ルキウス : おいおい・・・ ルキウス : あちこちから魔物がでてきやがった・・・ ルキウス : こいつはちょっとやばいな・・・ ルキウス : 500はくだらないか・・・ ルキウス : くっ サキュバス : 精々足掻くがいいわ、人間ッ!! インキュバス : はっ! スバル : はぁ、はぁ・・・魔物の癖に、やるな・・・ インキュバス : そのまま返してあげるよ、その言葉 インキュバス : 人間の癖に・・・なんて侮ったつもりはないんだけどね スバル : (クッ、ここまでか・・・・・・) インキュバス : でも、次で終わりさ インキュバス : ・・・・・・・・・ッ!! スバル : ? インキュバス : (魔王様の・・・気配が無くなった・・・?) インキュバス : (まさか!?) スバル : ・・・・・・? インキュバス : 君に構っている場合じゃなくなった インキュバス : ・・・勝手に退くなり何なりするといい スバル : ・・・何だ? スバル : 命拾い、したのか? ルキウス : 誇り高いお前らが、たった一人の人間に追い込まれる・・・ ルキウス : 屈辱だろうな〜 ルキウス : 500いた魔物も全部斬ってやった・・・ ルキウス : その気になればお前もすぐ殺せる サキュバス : !? ルキウス : 今のも、わざと急所を外した・・・・・・ ルキウス : これも屈辱だろうな〜 ルキウス : 魔物にとってはよぉ〜 ルキウス : くはははははっ サキュバス : ・・・ ルキウス : 憎い? そりゃ憎いよなァ! ルキウス : いいぜ、お前今最高に"人間"やってるよ ルキウス : 最近は魔物の方も楽しいな、下手な人間より"人間らしい"! ルキウス : 生物ってのはさァ、やっぱり憎しみがあってこそだ! ルキウス : そうだろ? ルキウス : ただな、俺ァよく悩むんだよ ルキウス : 憎悪に満たされたヤツを殺して断末魔を楽しむか・・・・・・ ルキウス : それとも・・・ ルキウス : 生かしといて、復讐に生きる様子を遠目に楽しむか! ルキウス : だからさ〜 ルキウス : お前、選べよ・・・ ルキウス : 人間に情け掛けられて命からがら生き延びるか ルキウス : この剣で・・・ ルキウス : ここで無残に殺されるか! サキュバス : 殺しなさい・・・ サキュバス : 人間ごときに情けを掛けられるのは屈辱ですわ! ルキウス : くっくっく・・・ ルキウス : いいね〜 ルキウス : 潔いね〜 ルキウス : それじゃ、まァ・・・ ルキウス : 終わりだ・・・ ルキウス : くっくっく・・・ インキュバス : させるかァァ!! ルキウス : おっと サキュバス : い、インキュバス!? インキュバス : チッ・・・・・・外したか インキュバス : サキュバス、無事か!? サキュバス : え、えぇ・・・なんとか インキュバス : サキュバスをここまで追い詰めるなんてね インキュバス : 君、ただの人間じゃないね ルキウス : あぁ〜、急に出てくるから余計なもの使ってしまったじゃねぇか・・・ ルキウス : 俺が人間じゃないって? ルキウス : どこをどうみても人間じゃねぇかよ ルキウス : はぁ〜 ルキウス : 興が削がれたな・・・ ルキウス : そろそろ引き際か・・・ ルキウス : じゃあな インキュバス : 待て、サーニャを何処にやった!? ルキウス : サーニャ? ルキウス : あ〜、あの娘っこか ルキウス : アレならあの将軍が連れて帰ったぜ ルキウス : そんなに怖い顔すんな ルキウス : 殺されやしねえだろうよ ルキウス : 安心しなって インキュバス : 魔王様を殺したのは・・・・・・ ルキウス : んあ? ルキウス : あ〜 ルキウス : ありゃ自殺みたいなモンだ ルキウス : 健気に、あの娘の身代わりになったよ インキュバス : やっぱりそうか・・・ インキュバス : 汚い・・・ッ!! ルキウス : もう聞きたいことがないなら ルキウス : 俺は行かせてもらうぜ・・・ ルキウス : この近辺にゃ、もう面白味は無さそうだからなァ ルキウス : おっと ルキウス : そうそうサキュバスちゃんよ? ルキウス : 折角生き延びたんだからさ〜 ルキウス : 今度は・・・俺を殺しにおいでよ・・・ ルキウス : お前だけじゃ勝てないだろうからさ ルキウス : インキュバスと・・・魔"王と一緒に"な ルキウス : くっくっく・・・ インキュバス : 貴様一体・・・・・? サキュバス : 貴方、一体何者・・・!? ルキウス : 俺はただの傭兵さ ルキウス : ――じゃぁ、また"次の舞台"ででも会おうや インキュバス : ・・・・・・ふぅ サキュバス : インキュバス!? インキュバス : いや、大丈夫だよ・・・少し疲れただけ サキュバス : そんなこと言って、傷だらけではありませんの!? インキュバス : 大丈夫。君ほどじゃないよ インキュバス : でもごめん・・・・ インキュバス : 来るのが遅れて サキュバス : 遅れすぎですわ・・・ サキュバス : サーニャを攫われてしまいましたもの インキュバス : そうだね・・・奪い返しに行かないと インキュバス : "魔王様と一緒に" サキュバス : そうだね!魔王様と一緒に サーニャ : う、ううん・・・ここは? クリス : 目は覚めたようだな クリス : ここは私の家の一室・・・これからお前が住む場所だ サーニャ : に、人間ッ!? クリス : 安心しろ、危害を加えるつもりはない クリス : まずは食べろ、丸二日眠っていたままだったのだからな クリス : お前が目覚めるのを待っていたのは・・・そう、一つ話をするためだ サーニャ : 話すことなんかない! クリス : こっちにはあるんだ・・・お前の父、魔王のことでな サーニャ : お父様の!? クリス : そう、そのお父様のことだ クリス : ・・・・・・殺したよ、私が サーニャ : ・・・え? クリス : お前を庇って死んでいった・・・娘思いの良い父だったよ サーニャ : 嘘だ クリス : 嘘じゃない、事実だ クリス : どうだ、父を殺された気持ちは? クリス : 絶望したか? クリス : 私を恨むか? クリス : 殺したいほど憎いか? クリス : 答えろ・・・・・・ッ! サーニャ : ・・・どうして? クリス : 私は、お前の大事なモノを奪った人間なんだぞ! クリス : 何故って? クリス : 復讐だからだ クリス : 彼を私から奪い去った、 クリス : お前達魔物へのな! サーニャ : 違う。そうじゃなくて・・・・・・ サーニャ : さっきからどうしてそんなに、 サーニャ : "泣きそうな顔をしているの?" サーニャ : なんだか、まるで自分に言い聞かせてるみたい サーニャ : "自分は魔王を殺したんだ"って クリス : う・・・・・・うるさい!! クリス : 殺したいほど憎いと言え、お前も私の気持ちを味わえ! クリス : 何なんだ、魔王を殺したのに・・・・・・どうして私の気は晴れない!? クリス : 仇を討ったんだ、親友を殺した魔物の・・・親玉を討ったんだっ クリス : なのに、どうしてっ・・・こんな虚無感ばかりが胸に、溢れるんだ!? サーニャ : よしよし サーニャ : ボクが泣いてる時、お父様がよくこうしてくれたの サーニャ : 落ち着くでしょ? クリス : 離せ! 私は、お前の父を殺したんだぞ! サーニャ : ふーんだ! サーニャ : 人間なんかにお父様がやられる訳ないもん サーニャ : ぜぇーったい、嘘! クリス : ・・・押し問答をするつもりはない クリス : 時間と共に理解するさ・・・父の死を サーニャ : しないよ サーニャ : ボクは信じてるもん サーニャ : お父様がここに迎えに来てくれるって クリス : 私もそう信じて、何年も待ったものだ クリス : だが、現実はそう甘くない・・・・・・ クリス : ビリーは戻ってこない サーニャ : ・・・ビリー? クリス : 私がかつて失った親友の名だ サーニャ : そっか、クリスって貴女のこと? クリス : 何故、私の名前を知っている!? サーニャ : お父様が教えてくれたから サーニャ : ビリーとクリスについて、ね! クリス : ・・・・・・どういうことだ? インキュバス : よいしょっと・・・ インキュバス : 窓から失礼 クリス : お前は・・・!? サーニャ : お兄様!? インキュバス : "魔の森"から、愚妹を引き取りに参りました インキュバス : ――それ以上サーニャに近付いたら殺・・・ インキュバス : ・・・・・うん 近づかないで欲しいな サキュバス : インキュバス・・・? サキュバス : 貴方今、顔見て美人だったからって考え直しましたわね・・・!? サーニャ : お姉さまも!? インキュバス : いやいやいや! インキュバス : 美少女と美女は世界の宝だし サキュバス : 死にたいなら死にたいと言ってくれた方が分かりやすいですわよ? 魔王 : やれやれ 魔王 : 緊張感の欠片もない クリス : この声は・・・!? サーニャ : お父様! 魔王 : これだからお前達を連れてくるのは嫌だったのだ インキュバス : あ、いやその・・・申し訳ありません サキュバス : わ、私達は先に外で待っておきますわね! サキュバス : サーニャ、行きますわよ サーニャ : え? サーニャ : お父様、もしかして・・・ 精錬石の精霊 : まいどおおきに! 精錬石の精霊からのお知らせやで〜! 精錬石の精霊 : 今さっき、精錬石のパワーが20%まで上がったで〜! 魔王 : まぁ、そういうことだ 精錬石の精霊 : この調子で100%目指して、頑張ってな〜! サーニャ : やっぱりそうなんだ・・・! ボク達外で待ってるね! サーニャ : クリス! サーニャ : ――君に幸あれ クリス : おい 魔王 : 何だ? クリス : お前は私が殺したはずだ クリス : ・・・何故生きている? 魔王 : 力の強い魔物は死体が残らない 魔王 : というのは知っているか? クリス : お前の死体が残らなかったのは覚えている 魔王 : 何故死体が残らないのか 魔王 : ・・・それは生き返るからだ 魔王 : 我々の中ではよく知られていることだが 魔王 : お前達は知らなかったようだな クリス : あの自害も、娘を庇ったのも、茶番だったということか 魔王 : ふん 魔王 : 茶番なものか 魔王 : 娘はただの人間だ 魔王 : ・・・殺されれば当然 魔王 : 死ぬのだから クリス : そもそも、お前はどうして自害した? クリス : その後、私はお前の娘を手に掛けていたのかもしれないんだぞ 魔王 : 悪魔とは 魔王 : フェアな生き物なのだ 魔王 : 相手を信じられずして 魔王 : 自分を信じて貰うなどおこがましい 魔王 : そうだろう? クリス : とんだ悪魔が居たものだ・・・ クリス : あの場で一方的に人間を殲滅しておいて言う台詞か? 魔王 : トドメは刺していない 魔王 : 半数は死んだかもしれんがな 魔王 : もっとも 魔王 : それについてはお互い様だ 魔王 : お前達も魔人を率いていただろう クリス : 魔人? 魔王 : 悪魔と契約した人間のことだ 魔王 : 知らないのなら気にするな 魔王 : 今はそんな話をしに来たのではない クリス : 一つ、疑問がある クリス : お前がその気になっていれば・・・・・・ クリス : 私があの娘に手を下すより早く、私を殺せたのではないか? クリス : 例え致命傷を負っていたとしても、だ クリス : 私には、お前が私を"殺すのを避けた"としか思えない 魔王 : 確かに 魔王 : 殺せたはずだった 魔王 : 我自身そうするつもりだった 魔王 : だが 魔王 : その直前で我が半身が飛び起きてな・・・ クリス : 半身・・・だと? 魔王 : とぼけたフリをするな 魔王 : もう薄々は勘付いているのだろう? 魔王 : ・・・・・・後は、"当人同士"でやれ 魔王 : ・・・・・・誕生日パーティ以外で 魔王 : 君の家に入るのは初めてだね 魔王 : いつも、君の方から孤児院に来てくれてたから 魔王(ビリー) : ・・・・・・久しぶり 魔王(ビリー) : クリス クリス : 本当に、ビリー・・・・・・なのか? 魔王(ビリー) : 実を言うとさ 魔王(ビリー) : 僕自身よくわかってないんだ 魔王(ビリー) : つい昨日まで 魔王(ビリー) : 自分は死んだものだと思ってた クリス : う、嘘だ 魔王(ビリー) : 嘘じゃないよ 魔王(ビリー) : 僕はここにいる 魔王(ビリー) : ただそれだけは 魔王(ビリー) : 本当だよ 魔王(ビリー) : とっ 魔王(ビリー) : クリス!? クリス : 来るな!! 魔王(ビリー) : ど 魔王(ビリー) : どうしたの? クリス : だ、駄目なんだ・・・私は、私は・・・君を殺したんだ クリス : 一度目は、自分の慢心と力不足から・・・・ クリス : 君を死なせてしまった クリス : 二度目は、あの娘を庇った君を殺した・・・ クリス : 他でもないこの手でっ!! クリス : 私は・・・君に合わせる顔がない・・・っ!! 魔王(ビリー) : クリスは何も悪くなんかないよ! クリス : 近付くな! 私には、君に会う資格がない・・・! クリス : 自分が許せなくて・・・ クリス : いっそ、死なせてほしい・・・!! クリス : ビリー・・・・・・ごめんなさい クリス : この罪は、死を以て・・・ 魔王(ビリー) : 馬鹿! クリス : ――君に幸あれ 魔王(ビリー) : ふぅ クリス : け、剣が!? 魔王(ビリー) : 今のは僕も流石に怒ったよ クリス : く、来るな! 私は君を殺したんだぞっ!? クリス : いや、それだけじゃない! クリス : 娘を人質にした上、約束を破って殺そうともした! クリス : 魔王から見て、私は・・・殺されても仕方のない人間なんだ! 魔王(ビリー) : ・・・・・・許すってさ クリス : え? 魔王(ビリー) : 魔王は、許すってさ 魔王(ビリー) : 彼自身、多くの人間を手に掛けたし 魔王(ビリー) : 同胞が人間を殺めているのも事実だから 魔王(ビリー) : …ってさ クリス : だがっ・・・・・・! 魔王(ビリー) : ・・・クリスの気持ちは 魔王(ビリー) : 実を言うとよく分かるんだ 魔王(ビリー) : 僕だって 魔王(ビリー) : 君の立場だったら自分が許せなくて死にたくなる 魔王(ビリー) : でも逆に 魔王(ビリー) : クリスが僕の立場だったら・・・ 魔王(ビリー) : 殴ってでも僕を叱ってくれる 魔王(ビリー) : そう 魔王(ビリー) : 確信してるんだ 魔王(ビリー) : だからっていう訳じゃないけど 魔王(ビリー) : 僕もこうさせて貰うよ 魔王(ビリー) : 少し痛いかもしれないけど 魔王(ビリー) : ・・・ごめん。先に謝っておくね 魔王(ビリー) : ・・・・・・クリス 魔王(ビリー) : ちょっと目を閉じて歯を食い縛って クリス : う・・・ クリス : な、な 魔王(ビリー) : これが僕の気持ち 魔王(ビリー) : 言ったら関係が崩れるような気がして 魔王(ビリー) : 今まで言えなかった 魔王(ビリー) : でも 魔王(ビリー) : 今なら堂々と言える 魔王(ビリー) : 僕・・・ 魔王(ビリー) : ビリーは 魔王(ビリー) : 出会った時からずっと君のことが好きだ クリス : ・・・・・・・・・・・・・・・卑怯者 魔王(ビリー) : ・・・ごめん クリス : 鈍感。唐変木。朴念仁 魔王(ビリー) : ・・・・・・ごめん クリス : ・・・ヘタレ 魔王(ビリー) : うっ・・・! クリス : だった癖に・・・ クリス : 本当に、なんでこんな時だけ、急に男らしくなるかな 魔王(ビリー) : あはは・・・ クリス : これじゃ、私がお姫様じゃないか クリス : 私が騎士で、君はお姫様じゃないと・・・駄目だったのに 魔王(ビリー) : それ 魔王(ビリー) : 僕にとっては悩みの種だったんだけどね ・・・ クリス : ――ごめん、私。さっき嘘ついた クリス : 本当は・・・本当はね クリス : 死にたくなんか、ない・・・っ! クリス : ずっと一緒に、生きたいよっ・・・いつまでも! 魔王(ビリー) : クリス・・・ クリス : ねえ、私を許してくれるの? 魔王(ビリー) : 許すも何も、僕は何も怒ってなんかいない 魔王(ビリー) : むしろ 魔王(ビリー) : 謝らせてほしいくらい クリス : 何を・・・? 魔王(ビリー) : ・・・待たせてごめん 魔王(ビリー) : 誕生日、おめでとう・・・クリス クリス : 誕生日・・・? 魔王(ビリー) : 君のだよ 魔王(ビリー) : 今日であれから十年・・・・・・ 魔王(ビリー) : ちょっと 魔王(ビリー) : 動かないでね クリス : ・・・・・・これは? 魔王(ビリー) : 十年前 魔王(ビリー) : 僕が渡すつもりだったプレゼント 魔王(ビリー) : クリスによく似合う髪飾り クリス : ビリー・・・・・・ クリス : 駄目だ・・・どうして涙が止まらないんだろ クリス : 君が居なくなった時に、もう枯らしたはずなのに クリス : 十年で、私・・・随分弱くなったみたい 魔王(ビリー) : 大丈夫だよ 魔王(ビリー) : えっと 魔王(ビリー) : その 魔王(ビリー) : せ 魔王(ビリー) : 責任は・・・ 魔王(ビリー) : 取るから 魔王(ビリー) : 僕が 魔王(ビリー) : 君の騎士になる クリス : 馬鹿・・・本当に馬鹿だ、 クリス : 君も、君の言葉で嬉しがってる私自身も クリス : その言葉、忘れないように・・・ 魔王(ビリー) : クリス・・・? 魔王(ビリー) : 今のは・・・ クリス : 二度は、しないから クリス : 姫は騎士なんかよりも偉いんだからな・・・ 魔王(ビリー) : ・・・うん 魔王(ビリー) : それじゃ、行こう? 魔王(ビリー) : 皆待ってる サーニャ : ・・・・・・ねえ、お兄様、お姉様 インキュバス : んー? サキュバス : 浮かない顔ですわね インキュバス : どうしたんだいマイシスター? サーニャ : 怒って、ないの? サーニャ : 勝手に森を出て、人間に捕まっちゃったのに インキュバス : 怒ってる インキュバス : すっごく インキュバス : 怒ってるよ? サーニャ : うっ・・・・・・ インキュバス : 二度とあんなことはするな インキュバス : いいね? サーニャ : ・・・ごめんなさい インキュバス : 分かればよろしい サキュバス : 私達も、油断しましたわね サキュバス : サーニャが思い詰めているのは分かっていましたのに インキュバス : まぁね・・・ インキュバス : 怖い思いをさせてすまない、サーニャ サーニャ : ううん、全然怖くなかったよ! サーニャ : ・・・・・・っていうのは、嘘 サーニャ : ホントは、とても怖かった サキュバス : あらあら・・・意外に正直ですわね サーニャ : うん、だから今すごく、ほっとしてるの・・・・・・ サーニャ : "お兄様とお姉様に嫌われてなくて"、よかった サーニャ : 怖かったのはね、人間のことじゃないの サーニャ : ボクがホントに怖かったのは、お父様、お兄様、お姉様 サーニャ : ・・・・・・皆に、嫌われちゃうこと サーニャ : 皆戦うのに、ボクだけ置いてけぼりなんて嫌だった・・・怖かった インキュバス : サーニャ・・・・・・ サーニャ : ボク達、ずっと一緒じゃないと嫌だ サーニャ : お父様も、お兄様もお姉様も・・・ビリーもクリスも・・・皆 サーニャ : 皆と一緒に居られるなら、ボクは何だってする サーニャ : だから・・・一人にだけは、しないで・・・ サキュバス : 大丈夫よ サキュバス : 私もインキュバスも魔王様も、決して貴女を一人にはしないわ インキュバス : ああ、約束するよ サーニャ : お兄様、お姉様・・・・・・ サーニャ : 大好き!!