ナレーター みなさんこんばんは    本日は第13回(再結成後第6回)劇団Sunnyspot公演     「魔王物語-前編- はかなき願い」にお越しいただきありがとうございます 演劇を始める前に注意事項があります 劇中はオープンチャット禁止となっています チャットルームは禁止ではありません 鷹、ペコに関しては解除していただくか、 邪魔にならないところまでお下がりください ペットに関しては意思なくしゃべることがありますのでご遠慮下さい また鯖缶などのトラブルにより劇が一時的に中断する場合もあります ということはせずそのまま流しますのでご了承ください 当劇団は前と後ろの二つの舞台を使用します 公演時間は2時間を予定しています それでは「魔王物語-前編- はかなき願い」の公演を開始致します 部下 魔王様、本気ですか!? 魔王 ん、何のことだ? 部下 人間達と和平しようという考えについてです! 奴らは神の手先、我々の敵にしか成り得ませぬ! 魔王 そうして敵に回した結果、人間を滅ぼし切れた験しはない 人間とて愚かではない 我らと共存し、共栄することは可能な筈だ 部下 戯言ですな 魔王 何? 部下 我らを魔物と言う理由だけで害する、 無知蒙昧な人間どもに歩み寄るなど言語道断 我々の住処を奪う人間どもなどこの世から消し去ってしまうべきなのです! 魔王 お互いを知らぬからそのようになるのだ・・・彼等とは交渉の余地がある 部下 貴方の妄言に付き合うのはもう飽きました 貴方は力は確かに強い・・・しかし、魔王としては失格だ! 魔王 貴様、何をするつもりだ!? 部下 そんなに人間が好きなら、人間になっておしまいなさい! 魔王 ぬぅ・・・これは!? 部下 私の力では貴方を倒すことは出来ません しかし、呪うことは可能です 魔王の力と記憶を封じられたまま、 貴方は、貴方の大好きな人間として生死を繰り返すがいい! 魔王 ぐっ・・・力が、抜けていく・・・ 部下 さようなら、魔王様 その呪いが解けるまでに、この私が人間を滅ぼしておきましょう 魔王 く、い、意識が保て、ぬ・・・ 部下 しばしの眠りです 魔王であることを忘れ、人間として生きるが宜しい 部下 フフ、フフフ・・・フハハハハッ!! ビリー ・・・またこの夢か ここの所、毎日だ 変な夢・・・何か僕に伝えようとしてるのかな? 院長 ビリー、いますか? ビリー 院長先生? あ、はい今開けます ビリー どうかしたんですか? 院長 クリス様がお見えになっていますよ ビリー クリスが? 分かりました、すぐ行きます! 院長 何処か出掛けるのであれば、日が暮れる頃には戻ってくるように くれぐれも、クリス様には失礼のないように ビリー はい! 行ってきます院長先生! クリス やあビリー、こんにちは ビリー こんにちはクリス、今日はどうかした? クリス どうかした? とは酷い挨拶だな 友達の家に遊びに来るのがそんなにおかしいことか? ビリー いや、そういう訳じゃないんだけどさ 孤児院に貴族が出入りしてると噂になっちゃうかもしれないじゃない 貴賎を弁えない貴族だとかさ クリス そんなのビリーが気にすることじゃない ビリー お家の方に迷惑が掛かったりとかしないの? クリス しない そもそも孤児院の運営を支えているのが私の家なんだから ビリー ええっ、そうだったの? 道理で、院長先生がクリスに気を遣う訳だ クリス ああ、だから私がビリーと遊ぶのも不自然なんかじゃない ということで、行こうか ビリー ん、行く・・・って何処に? クリス 孤児院の玄関先で話し続けるのも変だろう 街を適当に散策しようじゃないか ビリー それもそうだね、行こっか 商人 寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 今日は珍しいものが目白押しだよ! クリス 露店商人か・・・ふむ、言うほど珍しいものもないようだが? ビリー そうなの? 僕には見慣れないものも多いけど クリス なぁ店主、他にはないのか? この街ではあまり売ってないようなものとか 商人 へっへ、流石は貴族のご子息様・・・お目が高くていらっしゃる クリス ほう、よく分かったな 商人 それはもう、見るからに気品が違いますからな さて、御眼鏡にかなうかは分かりませんが・・・こういうものがございます ビリー うわー、珍しい帽子だね 商人 この街に来る途中、珍しい魔物がおりましてね 雇った傭兵がソイツから奪い取ったらしいんでさぁ クリス なるほどな・・・ ビリー、ちょっと被ってみせてくれないか? ビリー ・・・どう? クリス 意外だな、よく似合っているぞ 店主、これはいくらだ? 商人 ざっと5万ゼニーと言ったところですな ビリー ご、ごまん!? クリス 安いな、買わせて貰おう 商人 まいどあり〜 ビリー ちょ、ちょっとクリス? これ自分で使うんだよね? クリス そんな訳ないだろう プレゼントだ、プレゼント ビリー そんな、貰えないよこんな高価なもの クリス なに、気にすることはない ビリー 気にするよ! 一ヶ月の僕の食費よりずっと高いよ! クリス いいから受け取れ、私の奢りだから気にするな ビリー 奢りだから気にしてるんだって・・・ 全く、クリスは言い出したら聞かないんだから クリス 悪いな、性分なんだ ビリー ありがとクリス、大切にするよ 商人 あー、宜しいですかな? その、店先で二人の世界を作るのは少々お控え頂きたいのですがね クリス だ、誰がそんなこと! ビリー ・・・クリス? 商人 いやはや、しかし・・・・・・ お似合いですよ御両人 クリス ・・・行こう、ビリー! ビリー え? あ、うん ビリー そういえばさ、明日はクリスの誕生日だったよね クリス 嬉しいな、覚えててくれたのか? ビリー 記憶力は良い方なんだ 例年と同じなら、明日の夜はパーティだよね? 今日のお礼もあるし、今年は力作をプレゼントするよ クリス ありがとう、ビリー 去年は私の絵だったけど、今年は一体何なんだい? ビリー それは受け取ってからの秘密かな? ヒントは、クリスが身に着けられて、 とても似合うものだよ クリス 何だろう、アクセサリーかな? それとも衣服? 楽しみだな・・・期待して待っているよ ビリー ふ〜、今日は色々目新しいものばかりだったね! クリス ああ、この国も戦争が終わってからは行商が盛んだからな 日に日に新しいものが増えていってる気がするな ビリー 僕達が子供の内に戦争が終わって良かったよ クリスは貴族だし、間違いなく戦争に行ってただろうから クリス そうだな、戦時中ならこうしてビリーと遊べはしなかっただろうな ビリー ・・・ねえ、クリス。僕達はいつまでこうやって過ごせるのかな? クリス 唐突だな、どうかしたのか? ビリー 最近、変な夢を見るんだ ある日、僕は魔王で・・・誰かに呪われて人間になっちゃう夢 僕が魔王だったら、クリスはどうする? クリス ビリーは魔王なんかじゃないさ ビリー 仮定の話だよ クリス ・・・ビリーがビリーである限り、私もずっと一緒にいるさ ビリーが望まず魔王になってしまったなら、 私は勇者になって、魔王の中から君を助けだそう ビリー はぁ、それじゃぁ立場が逆転してるよ ただでさえ頼りないのが僕の悩みだって言うのに・・・ まるで僕がお姫様で、君が王子様みたいじゃないか クリス 今度女装してみてはどうだ? きっと絵になると思うが ビリー お断りします! クリスこそ、男装を控えてもいいんじゃない? クリス おいおい、声が大きいぞ 私が女だってことは、近しい者以外には秘密なんだからな ビリー そうだった・・・ 家を継ぐために男として生活してるんだよね、ごめん クリス でも、そうだな・・・そろそろ隠せなくなってきた 昼間の商人もうっすら気付いていたのかもしれない ビリー いっそもう公表しちゃいなよ 家を継ぐのは男じゃないといけないなんておかしいよ クリスは家を継ぐ実力は充分にあると思う 剣の腕だって凄いし クリス 家を継ぐために育てられたのだから、継ぐ実力くらいはあるさ ただ、そうすると私は婿を貰う立場になる訳でだな なんだ、その、他の貴族からの求婚が相次ぎそうで・・・怖い 貴族になんて生まれず、ビリーと同じ立場で生まれたかった ビリー それは・・・・・・ クリス ・・・なんて話していたら、すっかり日が暮れてしまいそうだな 今日は孤児院まで送ろう ビリー ・・・はぁ。女の子に見送られる男か、ちょっと情けないな クリス そうしてウジウジ悩む所も女々しくて守り甲斐があるな ビリー クリス、君って意外に意地悪だよね ・・・でも、ちょっと助かるかな 最近、近くにある無人の筈の屋敷から変な物音が聞こえてたんだ クリス 変な物音? ビリー 何かを漁るような音だったり、声だったり 孤児院に帰る時に通るから、何か気味が悪くて クリス なるほど・・・ 父上に申し上げて、近く調査をしてもらうよ ビリー ありがとう、クリス それじゃ、行こう? クリス ああ ビリー ありがと、クリス 今日は楽しかったよ クリス 私も楽しかったよ それじゃぁ、また明日 ビリー うん、また明日 ――君に クリス 幸あれ ビリー 幸あれ ビリー さてと、明日の夜はクリスの誕生パーティ・・・ 今日中にプレゼントを完成させないとね! ビリー よし・・・後はここをこうして・・・ ・・・痛ッ!? あちゃー、指切っちゃった・・・消毒しなきゃ でも・・・ ビリー うん、いい感じ クリス、喜んでくれるかなぁ 魔王 ほう、いい出来栄えだな ビリー 誰!? 魔王 我は魔王、お前の片割れのようなものだ ビリー そういえばその喋り方・・・あの夢の中の魔王と同じ? 魔王 なるほど、夢で見たか・・・ならば話は早い お前は記憶と能力を封じられた我に芽生えた、仮初の人格よ ビリー 僕が、仮初の人格? 魔王 うむ 人間との共存を望んだがために、部下に裏切られてしまってな 力と記憶を失くし、人間として生死を繰り返す呪いを掛けられた その呪いも今では弱まってきている こうしてお前に姿を見せられるのも、そのおかげだ そこで今日は、お前と取引しにやってきた ビリー 取引? 魔王 いや、難しいことではない お前の死後、お前の身体を我に譲ると約束して欲しいだけだ ビリー ・・・どういうこと? 魔王 実は呪いが弱まったと言えど、完全に解けきるまではまだ時間が掛かる しかしお前の身体を依代とすれば、すぐにでも呪いを解くことが可能だ ビリー 僕が君に身体を譲れば呪いが解けるってことかな 君は魔王・・・なんだよね? 僕の意思なんか無視して、強引に身体を奪うことも出来るんじゃない? 魔王 出来るが、そういう強引な手段は取る気にならん 悪魔というのは、フェアな生き物なのだ ビリー じゃあ、僕が死後に身体を譲るとして、その見返りは何かあるの? 魔王 そうだな、願いを一つだけ叶えてやろう ビリー えええ・・・!? 魔王 勿論、我の出来る範囲でしか叶えられんがな ビリー 例えば、僕を不老不死にするとか? 魔王 こちらはお前の「死後」に身体を譲って貰いたいと言ったのだが ビリー じゃあ、僕を大金持ちに 魔王 我に出来る範囲を逸脱している ビリー 君、一体何なら出来るのさ・・・ 魔王 ふむ・・・例えばそうだな ビリー ・・・!? さっきの指の傷が・・・治った? 魔王 流石に致命傷を癒すことは出来ないが、この程度はな お前自身に関することなら、叶えられることは少なくないぞ クリスをお前が守れるように力を与えるというのも可能だ 今の立場、お前は不満なのだろう? ビリー ・・・・・・一瞬迷ってしまった自分が憎い って、どうしてクリスのことを知っているの? 魔王 今日、お前を通して見ていたからな それで、どうするのだ? ビリー クリスとは公平に肩を並べたいって思うよ、実際 でもそんな力、僕は要らない 僕はただ、クリスとずっと一緒に居られればそれでいいんだ 魔王 クリスクリスと・・・お前には自分というものが無いのか? ビリー ・・・僕さ、クリスと会うまではずっと独りだったんだ 魔王 ほう ビリー 院長先生や孤児院の他の子は居たけど、友達って言えるのは居なくてさ ある時突然、部屋の窓からクリスがやって来て、僕に言ったんだ 「皆は外で遊んでるのに、どうしてお前は部屋で一人なんだ?」って 友達が居ないって答えたら、クリス、何て言ったと思う? 魔王 友達になってやると言われたという訳だな ビリー まぁ、似たようなもの・・・なのかなぁ クリスはこう言ったんだ 「じゃぁ、お前はお姫様だ!」 「私は騎士だから、お前を守ってやることにする!」 魔王 なるほど、その頃からヤツは騎士だったという訳か しかし、姫扱い・・・まぁ、今でも大差はないか 当時から華奢だったのだな ビリー 頭が痛くなることを言わないで ・・・・・・それで部屋の窓から連れ出されて、二人で街の探検さ 僕が靴を履いてないことに気付いて、綺麗な靴を買ってくれたのを覚えてる ・・・男の子が履くようなものじゃなくて、女の子用のだったけどね 石造りで、今思えば高級な店だった気がする 魔王 ・・・・・・聞いていると随分幼い時代の話だが、 クリスはその頃から金を持ち歩いていたのか? ビリー 僕としても驚きだったよ、本当に まぁ、それがクリスと僕の出会い それから色々あったけど、いつもクリスは僕の手を引っ張ってくれたんだ だからかな、何をするにもまずクリスのことが頭に浮かんじゃって 魔王 お前にとってクリスが特別な存在だということは分かった ビリー それで、さっきの願い事についてだけど・・・ 真面目な話、クリスを幸せにすることとか・・・出来る? 魔王 それはお前がやれ。馬鹿者が ビリー えー・・・・・・ 魔王 まぁ・・・願いはお前が死ぬまでに決めればいい事だ 精々、悩んで決めるがいい ではな ビリー あ、待って! ――君に幸あれ お別れの挨拶だよ 魔王 おまじないのようなものか・・・? まぁいい ――君に幸あれ ビリー 意外と良い人、なのかな? 人じゃないけど でも何だか、どっと疲れた気がする・・・・・・ プレゼントも完成したし、今日はもう寝よう クリス、喜んでくれるかな・・・・・・ 腕試しの男 さぁさ、誰か挑戦者はいないか?! 挑戦1回5000z、俺に勝てればなんと50000zだぜ! クリス こんな往来で堂々と賭け勝負か・・・ 意気込みは買うが、賭博行為は禁止されている 見回りの兵が来ない内に引き上げた方がいい 腕試しの男 何だ坊主、アンタが挑戦してくれるってのなら 俺としては大歓迎なんだが? クリス しょうがないな・・・その方が手っ取り早そうだ クリス さて、何処からでも来ると良い 腕試しの男 ナメやがって・・・それじゃぁ遠慮無く! クリス 何処を狙っている? 腕試しの男 くそ、どうなってやがる!? クリス こっちだ クリス チェックメイト 腕試しの男 な・・・い、いつの間に・・・ クリス 「参った」は? 腕試しの男 ま、参った・・・ クリス お疲れ様 今のは訓練ということで、一応は済ませておくが・・・ 次は無いぞ 腕試しの男 い、一体何がどうなってやがんだ・・・ クリス ふぅ・・・ ん? あれは・・・ ビリー おーい、クリスー! クリス ビリー! ビリー 流石だね、クリス クリス これくらいは出来て当然のことさ ビリー 簡単に言うねー・・・大分強そうな人だったけど クリス 弱くはなかったが、強くもなかった 傭兵崩れと言ったところだろうな ビリー あ、そっか・・・前の戦争の クリス 戦争が終わって、職を失ったのだろう 平和になって、ああでもしないと生きられない人が居る・・・ これは早く解決しないといけない問題だな ビリー そうだね・・・国で兵士に雇えないのかな クリス 一人二人ならともかく、全員を雇うとなると難しいだろうな それこそ、また戦争を始めない限りはな・・・ それはさておき 昨日言ってた屋敷の件だが、調査することに決まった ビリー 本当? よかった、これで一安心だよ クリス あの屋敷は、前の戦争でスパイをしていた貴族が住んでいたらしい 国に捕まってから、屋敷は差し押さえられたものの 戦争終結以降、人の出入りが殆ど無いようだ 物音がするというのは、空き巣か何かじゃないかって疑ってる ビリー 昨日の今日でよくそこまで・・・クリスは凄いね クリス べ、別にこれくらい普通だ それに、調査の日程は来週・・・まだ先だ ビリー そっか・・・すぐに解決って訳にはいかないんだね クリス 心配なら、今日にでも私一人で調査に行こうか? ビリー えぇ!? クリス 私自身、来週というのは遅すぎると思っているくらいだ 中に何が居るのか知らないが、時間を置くほど危険は増すものだ ビリー ダメだよ、危ないし クリス 大丈夫さ、まさか魔物が出るなんてこともないだろうし この街の堅牢さは、ビリーだって知ってるだろう? ビリー それは知ってるけど・・・ クリス 四方は高い城壁で囲まれているし、 商人の出入りすら兵が細かくチェックしているんだ 魔物が入る隙なんて無いんだからな ビリー でも屋敷に賊が何人も潜んでたら・・・? クリス そんなに沢山の出入りがあるなら、とっくに騒ぎになっている 居てもせいぜい2人程度だろうさ ビリー むむむ・・・それでも、やっぱり心配は心配だよ クリス やれやれ、心配性だなビリーは 仕方ない、その心配に免じて単独調査は諦めよう ビリー 今日はクリスの誕生パーティなのに、怪我なんかしたら大変だからね クリス 違いない さて、私は少し用事を済ませてくるとしよう 夜になったら私の家に来てくれ、君なら顔パスだ ビリー あ、うん、分かった それじゃぁまた後で クリス ああ、後でな ビリー ん、あれ? あっちは件の屋敷の方だったような・・・ ・・・まさか、ね ビリー やっぱり気になる・・・追いかけよう! クリス さて、屋敷の前に着いたはいいが・・・ 一人で調べるには大きすぎる気もするな ・・・まぁ、何とかなるか ビリー やっぱり・・・クリス、一人で調べるつもりだ それに、何だろ・・・とても嫌な予感がする これは一体・・・? 魔王 ふむ、"居る"な ビリー うわ、いきなり出てこないでよ ・・・居るって何が? 魔王 魔物だ ビリー 魔物!? 大変じゃないか、クリスに知らせないと! 魔王 落ち着け、お前はただの人間だぞ 魔王でも戦士でも魔法使いでもない、ただの人間だ 襲われたら、一溜まりも無いぞ ビリー でも、クリスを放ってなんかおけないよ! 魔王 我に力を望めばいい そうすれば、魔物を倒せるだけの力を与えられるぞ ビリー ありがとう、でも・・・必要ないや 魔王 何故だ? ビリー 根本的な解決じゃないからね 僕が強かろうと弱かろうと、今現在クリスが危ないのには変わりないでしょ 今すぐ屋敷内の魔物を追い払ってって頼んでも、どうせ無理だろうし 魔王 ・・・・・・屋敷ごと吹き飛ばせば可能だが ビリー アハハハ・・・殴るよ? そんな冗談はいいからさ、例えば・・・そうだな・・・ もしクリスが魔物に襲われて怪我をしたら、 それを治すことって出来る? 魔王 出来なくはないが・・・・・・ ビリー そっか、じゃぁ願い事はまだ寝かせておくよ また今度決めることにする 魔王 ・・・まぁ、好きにするがいい ビリー 行こう・・・クリスを連れ戻さないと! クリス おかしいな 埃は溜まってるし、誰かが入り込んだ形跡が無い 荒らされた様子もないし・・・ でも、それだとビリーが聞いた物音っていうのは何だったんだ・・・? ビリー うえぇ・・・外から見てるだけだと感じなかったけど・・・ ここすっごく広いなぁ・・・どうしよ・・・ おーい、クリスー! ビリー って・・・下手に大声出すと魔物を呼ぶことにもなるかも 慎重に探すしかない、かな・・・ クリス ん? 今、声が聞こえたような ・・・気のせいか もっと奥を探そう、きっと何かあるに違いない クリス ん、これは扉か? やけに頑丈に作られているようだが、一体何の目的だ? ・・・開かないな、鍵でも掛かっているのか? どれどれ・・・よし、開いた 調査用に鍵を持ち出して正解だったな クリス ・・・暗いな、窓すら無いのか? ん? クリス 何か足に当たったと思えば・・・これはランタンか? 丁度良い・・・使わせてもらうとしよう クリス 何だ、これは・・・ 酷く荒らされているな・・・何故この部屋だけ? クリス 扉の内側には無数の傷跡・・・これは引っ掻いた跡か? 凹んだ部分もあるな・・・何かが部屋の中で暴れたのか? クリス ん、何やら階段があるな 地下室でもあるのか? 進んでみよう ビリー おーい、クリス〜・・・? うわ、真っ暗だ・・・何か明かりはないのかな ビリー あれ、これはランタン・・・? なんでこんな所に まぁいいか、ちょっと拝借しよう ビリー え、何・・・? この部屋、荒らされてる 部屋の中央には階段か・・・怪しいな 確か、この屋敷って敵国のスパイが所有してたんだよね・・・ だとすると、自分が追い詰められた時の非常口を持っててもおかしくない ランタンが備えてあるのも非常用だから、かな? もし階段の先が街の外に繋がってて、そこから魔物が入ってきたのだとしたら・・・? 大変だ、急いでクリスを連れ戻さないと!! クリス 階段の先に道があったものだから、真っ直ぐ進みはしたが・・・ 一体何処まで続いているんだ・・・? これじゃあ地下室じゃなくて地下道じゃないか 魔物     セ クリス 何だ? 何か聞こえたような 魔物 カ   セ クリス 気のせいじゃ、ないようだな・・・ 魔物 カ エ セ !!! クリス クッ!? 凄い力だ・・・! ・・・ぬかったな、骨をやられたか・・・? チッ、ランタンで片手が塞がってさえいなければ・・・! 魔物 ボ ウ シ !!  カ エ セ !!!! ビリー クリス、危ない!!! クリス え・・・び、ビリー・・・? 魔物 ミ ツ ケ タ !! クリス ――貴様ァァッ!!! 魔物 アアアァァッ!! クリス ビリー! おい、しっかりしろ、ビリー!! ビリー ごめ、ん・・・ついて、来ちゃった・・・アハハ クリス なんで、私を庇ったりした・・・? ビリー これで、少しは・・・頼り甲斐、持てた、かな? クリス ――馬鹿! そんなこと言ってる場合か!! ビリー ク、リス・・・泣いて、るの? クリス 泣いてなんかない! 泣いてなんか・・・あれ・・・? ビリー ごめ ね、パ ティ、行けそ に、ない クリス 弱気になるな! 今すぐ医者に連れて行ってやるから! ビリー おねがい  ク スを、か しま ないで ――君にさち、あれ クリス やめ・・・そんな挨拶、やめて・・・っ! ビリー クリス ビリー・・・? ビリー クリス 嘘だ、こんなの・・・ ビリー、お願い、返事をしてよ・・・ビリー! ビリー クリス わ、私の所為だ・・・私が驕った所為・・・ う、あ・・・ うわあああああああああああああ!!!! ナレーション -五年後- とある酒場での一幕 マスター へぇ。アンタそのナリで、昔は医者だったのかい? 医者崩れ まぁ、昔のことだがね これでも今の"冷将"家のお抱えだったんですよ マスター ほう、これは大きく出たもんだ・・・ 冷将と言えば女の身でありながら伯爵家を継ぎ、 今やこの国の軍の中核担う柱じゃないか そのお抱えのお医者様が、どうして今みたく落ちこぼれちまったんだ? 医者崩れ あの日、幼い日の冷将様が親友の死体背負ってやって来てねぇ 流石に私も死者は蘇らせられませんで、お悔やみ申し上げたんですが 早く助けてくれと、半ば狂乱状態で頼まれましてね マスター あの冷将様にそんな過去があったなんてなぁ なるほど、そのショックでああなったのかもな アンタの創作にしちゃぁよく出来てるよ 医者崩れ まぁ待ちなさいな、続きがあるんですよ 頼まれた私は、まぁ手術するってでっち上げて死体を預かった その翌日のことですよ ・・・死体が消えちまってたんです、跡形もなく マスター ・・・唐突に何処ぞのホラー話になっちまったな ん、ホラーと法螺を掛けた巧妙なギャグかい? コイツは一本取られたなぁ! 医者崩れ ま、信じる信じねえは勝手でさぁ それ以降私ゃ廃業に追い込まれ、社会的に抹殺された モグリでしか生きていけなくなった訳だ マスター はっ、そう繋げてきたか が、今日の飲み代はまからんねーぜ? これまでのツケが貯まりに貯まってんだからな! 医者崩れ そりゃねーですよマスター! ナレーション "魔の森"深部での一幕 魔王 五年前の、あの時 屋敷に潜んでいたのは、商人に帽子を奪われた魔物だったようだ 知性の高い魔物だったのだろうな 街に繋がる地下道を探し当て、執念の一心で辿り着いたのだろう 思えば、あの魔物も悲惨な運命を辿ったものだ サーニャ ビリーは、死んじゃったの? 魔王 いや、生きている・・・ この我の中で、な ヤツめ、最後に"願い"を呟いていったのだが、 どうしても我一人では叶えてやれないものだったのでな サーニャ パパ、ビリーは何をお願いしてきたの? 魔王 「クリスを悲しませないで」だと ビリーが死んだ場合、クリスが悲しむのは避けられん よって、ビリーをそもそも死なせないように一工夫したのだ 具体的には、奴の人格をそのまま我の中に残している 願いを反故にする訳にもいかんからな・・・・・・ サーニャ でもボク、ビリーなんて見たことないよ? 魔王 唯一の誤算が、それなのだ ヤツは自分が死んだと思い込んで、未だに眠っておるのだ 早く目覚めんことには、クリスも悲しんだままだというのに サーニャ クリスに伝えてあげないの? ビリーは生きてるって 魔王 伝えたところで信じられるものではないだろう やれやれ、どうすればビリーを叩き起せるやら サーニャ ビリーをびっくりさせれば起きると思う! 魔王 ふむ、我が死んでみればヤツも飛び起きるかもしれんな サーニャ 死んじゃダメだよお! 魔王 はは、冗談だ ・・・こう陽に当たっていると眠くなってしまうな 我は暫く眠るとしよう。お前はどうする? サーニャ じゃあ私も一緒に寝るー! 魔王 そうか、なら暫く共に眠ろう こうしていると、本当の親子のようだな サーニャ 親子だよ、パパとボク・・・ずーっと一緒 ナレーション とある魔物の巣での一幕 魔物 ヤ、ヤメテクレ、モウ、ニンゲン襲ワナイカラ・・・ クリス ・・・・・・ 魔物 ギャアアアアア!! ルキウス 流石は「冷将」様、命乞いに耳も貸さぬとは スバル 貴様、無礼だろう!! クリス 任務は終わった、行くぞ ルキウス クク、ゾクゾクするぜあの視線 ガキの頃は騎士然とした奴だったらしいが、 なかなかどうして! 今じゃいい女じゃねーか スバル 貴様は知らんのかもしれんが、 将軍殿は五年前、一番の友を魔物に殺されているのだ それ以降、心を壊されてあのようになったという ・・・痛ましいとは思わんのか、貴様は ルキウス ハ、いい経験じゃねーか! 魔物を目の敵にするのもよく分かるぜ!! スバル 傭兵上がりの糞野郎が・・・ ルキウス お褒めに預かり恐悦至極、ククッ スバル チッ・・・ ナレーター これにて、「魔王物語-前編- はかなき願い」は終了となります 親友を失ったクリスは、墓標なきビリーに何を誓うのか 呪いを解き身体を手に入れた魔王は、何を願い行動するのか 果たして、ビリーは無事に目を覚ますことが出来るのだろうか ――後編に続きます